トクフミの映画覚書

東大で自主映画制作と漫才を二足のわらじでやっているブログ主が作品のレビューや活動報告をさせていただきます。

『あゝ、荒野 後編』鑑賞!ネタバレ無し

前編を観た日のうちに一気に観てしまいました。岸善幸監督『あゝ、荒野 後編』。例によってネタバレなしで書いておりますが、どの程度の内容をネタバレと感じるかには個人差があります。特に今回のように「後編」なるものをネタバレなしで書くのは難しいですね。

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ちなみに、上のポスターでわかってしまう内容はネタバレ認定しません。新次と健二は戦いますよ勿論。 

あゝ、荒野 後篇

あゝ、荒野 後篇

 

 

 前作の感想はこちら⬇︎(大傑作です)

tokufumi101.hatenablog.com

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あらすじ

2022年・東京。復讐心、自分を変えたいという思いからボクシングを始めた新宿新次とバリカン健二は、プロライセンスを取得しボクサーとしてデビューしていた。新次はかつて自分を裏切ったユウジとの試合に向けて殺気立つ勢いでトレーニングを重ねる。一方健二は、偶然陣痛に倒れた女性を助けるが、それをきっかけにバラバラの人々がつながり始めるーー

後編は、前編よりも遥かにボクシングシーンが充実していました。スポーツ映画で「本当の試合を観ているようだ」と例えられるものがありますが(僕は観たことありませんが)この映画もそのカテゴリに含まれるでしょう。1試合をめちゃくちゃ克明に描いています。僕は昔からこういう姿勢が好きです。ジャンル映画の、ジャンルそのものを描写することから逃げない姿勢。しかもその描写の鋭さには鬼気迫るものがありました。「ボクシングってめちゃくちゃ面白いし興奮するんだな!親父が熱中するわけだ」と思いましたもん。だからと言って僕が今後ボクシング観戦に熱中することはないでしょう。本物の試合には、完璧なカメラカット割りも菅田が繰り出す素人でも「嘘つけ」と思う挑発プレイも叫びもありませんから....

これからちょっと批判しますが、本来前編と後編で面白さを比べるものではないと思います。二本で1つの作品なのだから。しかし前編の最後にあんな素晴らしい後編予告が用意されといて後編を観ない、という人もなかなかいないでしょうから僕が多少後編の悪口を言っても後編の視聴人数を減らすことにはならないと信じます。

なんというか、ただのボクシング映画になってしまった感はありますよね。前編はボクシングパートに加えて、登場人物の壮絶な過去編、さらに西北大学の自殺研究会員が「自殺フェス」を計画、実行するまでをそれぞれ見事に描いていた分物足りなさを感じてしまう方もいると思います。まあ、ある映画の後編というのは評価面で見れば前編より圧倒的に不利ですね。うまくまとめねばならない、つじつまを合わせねばならないという役割を負っている分、過剰に話を展開させるのは難しいし、収束して行ってる感を帯びてしまうリスクが十分にあります。この映画も例外ではありませんでした。それは仕方ないです。

僕が一番違和感を感じたのは終盤の演出です。つまり、新次vs健二戦。かつて共に練習し、まるで本物の兄弟のように過ごした二人ですが、同じジムにいたら自分が憧れる新次に勝てないと悟った健二が、ジムを移籍してまで望んだ一戦です。この試合は当然物語のクライマックスとなるべきシーンですが、この試合だけスローモーションが多すぎます。スローモーションはやたらめったらに使って良い演出ではなくて、然もなくばシーンを冗長にするだけだということをすごく感じました。なんだろう、確かにボクシング素人の俳優だからある程度演出でごまかさなきゃいけないのはわかるんですけど、でもスローって逆効果では?より下手さが分かっちゃうじゃん、と思うのですがどうでしょう。

また、そこに畳み掛けるように意味不明な新次の夢想シーンが出現します。いや、意味自体はわかるんですけど、「なぜこのシーンを入れたの?」っていう監督の意図のわからなさです。前・後編通して近未来の東京を極めてリアリスティックに描いてきた本作のラストには明らかにふさわしくない奇妙なシーンです。あのシーンのためにわざわざあのロケ場所まで菅田や撮影隊が遠征したのかと思うと僕はこんな感じになります。

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正座で足が痺れた人のイラスト(喪服の男性)

で、最後の最後のあのカット。映画の最後のカットって非常に繊細で監督の意図が読めないものも多いです。これもそうでした。まだちょっと語りきらんです。

色々言いましたがこの『あゝ、荒野』は前編・後編通して平成の日本映画史に燦然と輝く傑作です。前編見た人は後編も見ましょう。でもどうしても時間がないという人は前編だけでも見てください・・・ 

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←本作

寺山修司氏の原作はこちら