トクフミの映画覚書

東大で自主映画制作と漫才を二足のわらじでやっているブログ主が作品のレビューや活動報告をさせていただきます。

『運び屋』鑑賞!このおじいさんはどこまで映画を撮り続けるのか

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お久しぶりです。だいぶ時間が空いてしまいましたね。

今日は午後から自主映画の撮影があったのですが、その前に近くの映画館でクリント・イーストウッド最新作『運び屋』を鑑賞させていただきました。

※最近気付いたこと。映画館でいつの間にか眠ってしまうことが多い同志の皆さん、ポップコーン1カップ買っておくと違いますよ。鑑賞中も咀嚼という運動をし続けることによって脳が活性化されますから(医学的根拠に基づいておりません)。ただ周りのお客さんの迷惑にならないように。

あらすじ

アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、孤独な90歳の男。商売に失敗し、自宅も差し押さえられかけたとき、車の運転さえすればいいという仕事を持ちかけられる。それなら簡単と引き受けたが、それが実はメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」だということを彼は知らなかった…。(Filmarksより引用)(116分)

良い!!イーストウッド作品はあまり見て無いのですが、僕が今まで見た彼の作品の中では一番良かったです。

何が良いかってまず話がわかりやすいところです笑(先日午前十時の映画祭で『大統領の陰謀』を観たのですが、ウォーターゲート事件について知識が薄弱だった僕は途中で話がよくわからなくなってしまい、最後の1時間は開き直って爆睡しました哀)結局90歳のおじいちゃん視点で物語が進むわけだから、複雑になりようが無いのです。

で、いい意味で癖がない監督ですよね。一言で表すと「王道」。彼はフラットな視点で対象を捉えるのが得意なのだと思います。会話のアングルの切り替わりもお手本のようで、脚本にマッチしている。一番伝えたい部分で話者の顔がきちんと抜かれる、と言いうような程度のことですが。

そこに来て終盤の警官による追跡の下りの躍動感は、「ああ、ちゃんと現代々々しているな」という演出力。イーストウッド、恐るべしです。

そんなアメリカを代表するフィルム・メーカーも今年で88歳。通常ならとっくに引退しています。というか、死んでます。それなのにこのおじいさんと来たら、上腕二頭筋一つとっても水泳選手のような逞しさで、、衰えとかないんでしょうかね。

そこで、僕が疑問に思ったのは、「こんなおじいさんが良作の全てを司る監督という役割をこなしてしまうのか!?」という話。いくつかの記事を調べてみましたところ、イーストウッドは67年に「マルパソ・プロダクション」という映画製作会社を立ち上げて以来、30年以上にわたって同じスタッフと製作を続け、今では家族同然の存在のようです。大御所映画監督というのはそのような製作体制が多いのかもしれませんし、だからこそ監督として動きやすいのでしょう。

中でも僕が心を動かされたのは丁寧な編集。僕らのような学生映画では監督がポスト・プロダクションもメインで担当することが多いですが、イーストウッド監督の場合は、彼の作品のほとんどをジョエル・コックスという編集技師が担当しているようです。僕は「編集(カット割りを考えること)こそ監督の醍醐味。一から作ったパズルのピースを組み合わせていくようなもの」と考えているので作品編集を誰かに委ねるのはしたく無いですが、「そうかぁ、さすがにポスプロまで八十八の爺さんがやるのはきついよなあ」と妙に納得してしまいました。と言ってもコックス氏も御年77歳で、十分化け物シニアな訳ですが・・・。

ここで現役の老齢大御所映画監督をまとめてみましょう。

ロマン・ポランスキー(85)

代表作『ローズマリーの赤ちゃん(未見)』『チャイナタウン』『戦場のピアニスト(未見)』

あまり彼の映画を見たことはありませんが、最近の『おとなのけんか』は81分で大人の汚さを最高品質のコメディで楽しめる失笑エンターテインメント。サクッとオススメしたいです。 

⬆︎『おとなのけんか』現代のコメディとして必見です

ウディ・アレン(83)

代表作『アニー・ホール』『ハンナとその姉妹』『ミッドナイト・イン・パリ

彼の凄いのはいまだに監督だけでなく脚本も自分で担当しているところ。最近はアマゾンとの訴訟問題で波乱を起こしておりますが、それでも日本最新作の『女と男の観覧車』の脚本は全盛期70~80年代の彼を彷彿とさせます(革新性こそ無いが)

⬆︎僕のイチオシ作品『アニー・ホール

リドリー・スコット(81)

代表作『エイリアン』『ブレードランナー』『オデッセイ』

SFの巨匠といって真っ先に名前が挙がるのはこの人。近年も『エイリアン コヴェナント』で気鋭ぶりが衰える様子はありませんが、やはりこの人の最大の功績は「お腹を突き破る寄生虫」という概念を早出したことですよね。衝撃!衝撃すぎる。

⬆︎『エイリアン』こちらはAmazonプライム・ビデオで観れます。腹のど真ん中を突き破るエイリアンを観よ!

こんなところでしょうか。イーストウッド監督は制作ペースも年齢も群を抜いていると言えるかも。しかしいかんせん歳も歳ですからいつポックリいってしまうかわかりません・・・。それでも彼は「楽しいから。引退はしたく無い」と語ります。今回作品『運び屋』を観て、彼には引退して欲しく無いと思わされました。本格的に死を意識せざるを得ない彼だからこそ作れる映画が観たい。頑張れ、映画界の山本昌。映画界の内海桂子。映画界のジャンヌ・カルマン